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私は、新しく発売されたDOLCEピアノ椅子を、群馬県高崎市のピアノプラザ群馬にて初めて出会いました。一見すると普通のトムソン椅子のように見えるのですが、実際に現物に触れてみて、まず非常に堅牢である事を感じました。そして安定感がしっかりしています。因みに、従来のトムソン椅子では、私自身経験したところでは、長年使用していきますと、がたつきや軋み、またそれぞれの高さに設定する時に斜めになってしまったりして最後には破損してしまう・・・、という事が多数ありました。

そして、座面の縁の角を丸く造られています。これは座っている時に、この座面の角が丁度太ももの裏側に当たる部分であり、特に長時間使用する際には非常に違和感を持つ部分ですので、それを解消しています。

それから私が最も大きい特徴と感じるのは、椅子の座面の角度が、前面に僅かに前傾になっている事です。従来のトムソン椅子は逆に後ろの背もたれ側に傾いている事が一般的ですので、非常に画期的な事かと思います。これは、実際ピアノを演奏する時には、身体の重心のかけ方というのは、演奏そのものを左右する非常に大事なファクターであり、常に前面側、つまりはピアノ演奏時には鍵盤側に前傾している事になり、弾き手の重心が常に鍵盤側に向いている事になり、演奏上においては全く理想であり、イタリア製のコンサート用の椅子に敢えて座面を前傾としているものがある程です。また、従来のトムソン椅子が後ろ側に傾斜しているという事は、その理想の逆であるという事になりますので、その点での特徴をお分かり頂けるものと思います。

また、これが国産である事を、我々は喜ばなければならない事だと思っています。

理想的な椅子については、世界的にいくつかのメーカーがあり、実際国内のコンサートホールで使用されている椅子もほぼ海外製です。しかし、やはり輸入では言語の違いから来る齟齬により意思疎通に問題があったり、また距離が離れているために輸送コストや時間がかかる事も問題でしたが、高品質な椅子が国産である事でそれらの問題は全て解決できます。

私は、このDOLCEピアノ椅子に端を発して、ピアニストにとっての究極の椅子に向けて大きな期待を以て見守っていきたいと思っています。

2023年5月

ピアニスト・ピアノ研究家

松原 聡

写真の椅子はDOLCEのウォルナットです。ビンテージスタインウェイの色に合わせて作られました。